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ダイバーシティの現場 ~障害者雇用の実際と、特例子会社の創業から「みらい」にこめる思い~

企業は従業員50人につき1名、障害者を雇用することを義務付けられており、今後その率は高まると言われています。ダイバーシティもますます重要になり、さらには労働者人口の急激な減少も含めて、企業は対応を迫られています。

 

そのような状況の中、2015年に設立された野村総合研究所の特例子会社、NRIみらい。代表の柴山慎一氏は、障害者雇用を促進するための新会社に設立当初から関わり、事業を軌道に乗せました。opnlabでは、11月4日開催の「NRIみらいに聞く未来の職場とダイバーシティ」ミニセミナーに柴山氏を招き、現場での経験や海外の調査の話も交えて、障害者雇用の現状や課題、展望などを伺いました。

 

 

■増加に向かう障害者雇用

 

障害の種類には、身体障害、知的障害、精神障害があります。私も最初は分からなかったのですが、法律では発達障害という認定の枠はなくて、知的障害や精神障害で認定を受けます。なので、障害者の話をするときには、三障害という言い方をします。また、認定基準も、東京だと知的障害にカウントされないものが横浜ではカウントされることもあるなど、自治体によって違います。

 

三障害で認定されているのは787万9000人、国民の6%強です。ずっと増加傾向にあります。この数字には高齢になってから脳梗塞で倒れて身体障害になった人なども含まれているので、仕事を求めている人だけではありません。

 

知的障害の登録に対する偏見は小さくなってきています。昔は隠したりもしましたが、今は公にして、普通学校で無理についていかせるよりも、障害者教育をしっかりやったほうが社会になじみやすいという見方の親御さんが増える傾向にあります。有名人が自らの障害をカミングアウトしているのも影響しているのでしょう。

 

日本で企業に義務づけられている障害者の法定雇用率は2.0%ですが、実績は1.88%(平成27年)です。大企業ほど進んでいます。2018年に法定雇用率が上がる予定です。この世界で仕事をしていて耳に入ってくるのは2.3%か2.4%になるのではないかということですが、3%まではどんどん上がっていくでしょう。2.5%になると、40人以上の中小企業でも1人雇用する義務が出てきます。

 

 

■雇用しないことを不思議に思う北欧

 

ヨーロッパの法定雇用率はもっと高くて、イギリスが3%、ドイツは5%になります。

 

アメリカや北欧は雇用率で縛るやり方ではありません。障害者雇用が進んでいる企業の調査のためにデンマークとスウェーデンへ行った時に、

「なんで法定雇用率がないのに障害者雇用をしているのですか」

と聞いたら、逆に、

「なんでしないのですか」

と問い返されてしまいました。

「お客さんに障害者が1割いたら、障害者の気持ちを分かるために、社員も障害者を1割入れておかないと、自分たちの機会損失になります。車椅子の社員がいるから、車椅子のお客さんの気持ちが分かるのです。マーケットに男女が半々いるから女性を半分にするのと同じでしょう。障害者のためではなくて、会社に機会損失が起こらないようにやっています」

と言うのです。ヨーロッパは、感覚が違う気がします。

 

以前、IRの仕事もしていたのですが、アメリカとヨーロッパではIRの感覚も違います。アメリカはいくら儲ける、来期はどうだという話が中心ですが、ヨーロッパは業績のことはone of themであって、社会に対してどういう貢献をしているかについて話すことが多くなります。

 

スウェーデンの会社では、軽度の知的障害で売り場のマネージャーをやっている人に会わせてくれました。部下が健常者です。人のマネジメントはできませんが、スペック化することで、業務のマネジメントはできるとのことでした。

 

 

■障害者に役立つ会社の設立へ

 

私は野村総合研究所の中に、特例子会社「NRIみらい」を作りました。特例子会社とは、グループの連帯責任として障害者雇用を行っていく器です。本来、障害者雇用は、普通の職場で健常者とともに机を並べて、健常者と同じように仕事をするのが理想ですが、特例子会社は、特定のところに障害のある社員を集めて、特別な配慮の元で仕事をしてもらうので、福祉の世界から見ると、次善策です。

 

ただ、私のところで採用している人を見ると、障害の種類や程度によっては、健常者と一緒に机を並べることのつらさを感じる人もいますし、同じような障害を持っている者同士が一緒に仕事をすることによる連帯感もあります。特例子会社に対して、「別扱い」だと批判する向きもありますが、次善策とはいえども十分価値があり、役に立っていると思います。

 

職場まで出勤できる身体障害者は、スキルがあれば健常者と同じように仕事ができます。しかし、出勤できない身体障害者には在宅勤務の仕組みを整える必要がありますし、知的障害者の場合には単独では仕事が成り立たないので、成り立たせるには5~6人に一人の指導員を付けています。精神障害者に関しても、特別なスキルを持つ人がある程度のケアをすることが必要です。さまざまな配慮が必要なので、ある程度専門の人間のいる場所でケアをして、仕事ができるような環境を整備するという意味では、特例子会社は有効だと思います。

 

2015年7月に会社設立し、3カ月後に認定を受けました。野村総合研究所グループ社員向けの福利厚生として社内にマッサージルームがあって、そこに視覚障害の社員が10人くらいいました。その社員に転籍してもらって、会社のベースを作りました。

 

当社が認定を受けた2015年10月の時点で、日本には四百数十社の特例子会社があります。このタイミングで特例子会社を作ったのは、定年による障害のある社員の減少と法定雇用率の上昇に対応するためです。現時点では法定雇用率は達成しているのですが、現在雇用している障害者の内訳は、ほとんどが通勤のできる身体障害者なのです。ある時期に採用した人たちが定年を迎えるので、ぐっと減ってきます。それに対して、法定雇用率が2018年から上がります。さらに東京での障害者採用マーケットを見ていると、ものすごい取り合いで、なかなか採用できません。そこで特例子会社を作って、知的障害者・精神障害者と範囲を広げて採用する方針になりました。同じような判断をしている大企業も多くなっています。

 

 

■「みらい」への三つの思い

 

そもそも会社とは、レバレッジを利かせて、世の誰かの役に立つことによって、存在意義があるのだと思っています。一方で親会社からは、野村総合研究所らしい特例子会社にしてほしいというお題もありました。そこで議論して、三つのビジョンを掲げました。

 

NRIみらいは、三つの「みらい」に貢献します。

 

一つ目は、社会の「みらい」のために。

 

野村総合研究所はシンクタンクという顔もあるので、野村総合研究所らしい特例子会社として、障害者雇用実態調査を年1回定点観測することにし、現在2年目の調査をやっています。また、年1回セミナーを開催し、障害者雇用の業界にいる人たちにデータを提供したり、いずれは啓蒙したりすることを目指しています。

 

障害者雇用の現場は、親会社の経営陣からもなかなか理解されません。そのために、いろいろなデータを提供することで、説明の材料を提供できればと思い、障害者雇用のシンクタンクを目指そうと掲げました。

 

二つ目は、障害者の「みらい」のために。

 

社会で支援を求めている人々のみらいへの貢献ということで、今は障害者を中心にしていますが、将来的には、いろいろな社会的弱者にまで広げられたらと思って、大きめにビジョンを掲げました。

 

キーワードは、「サポーティー(支援される人)を、サポーター(支援する人)に」。仕事をするとは、誰かを支援し、誰かのために何かをすることですから、支援されていた障害者が仕事をすることを通じて、サポーターに変わっていきましょうということを掲げています。

 

三つ目は、NRIの「みらい」のために。

 

株主でもあり顧客にもなる、親会社に貢献する。

 

特例子会社が親会社に何を期待されているかアンケートを取ると、業績で貢献するのはあまり期待されていません。1番目は法定雇用率遵守ですが、それ以外のこととして、ダイバーシティもあります。また、私が実際に現場で経験していると、親会社の社員に対して「気づき」を提供できるのです。障害者が一生懸命仕事をしていたり、ものすごく大きな声で挨拶したりしていて、心が洗われる効果があります。これが親会社に対する一番の貢献ではないかと思います。

 

仕事をしていると、自分の世界に閉じこもっていきがちです。そういう人たちに、障害者も同じグループの中で一緒にがんばっているんだと、なるべく会社の中で、彼らの働いている姿を見せようとしています。社内便の配達に行くと大きな声で挨拶しています。何かあると必ずイントラの社内報にアップします。「いいね」を押す機能があって、非常にたくさん「いいね」が押されています。

 

 

■単純作業だけでなく本業を支援する業務にも拡大

 

特例子会社を作ると、機能会社なのか事業会社なのかが、最初の論点になります。

 

障害者を雇用することが主目的だと、その特例子会社は人事部の機能を担っている会社だから、そのコストは人事部が全部持てばいいという発想になります。人事部の下にあるコストセンターにしてしまうと、業務提供先はただでサービスを使える仕組みになってしまいます。そうすると、業務を発注するグループ内のお客さんは、タダだからこの程度でいいかと、クオリティや納期に対する規律が緩んでしまいます。

 

一方で、事業会社とすると、仕事でお客さんから対価をもらって、それがコストを回収する元になります。やはりある程度の対価をもらうことによって、初めて厳しさが出てきます。なので、最低でもマーケットプライスの対価をもらう仕組みにするのが、特例子会社の一般的なかたちです。

 

具体的には、私の会社では、マッサージなどのヘルスキーピングや、オフィス周辺の間接業務をしています。

 

同じことを繰り返し一生懸命してくれる障害特性の社員は、書類をPDFにする仕事やパソコンでのデータ入力などの仕事が向いています。研修所のバックオフィス、つまり出欠やアンケートの集計、講師コメントの入力、会議室の設営なども適しています。社内便の配達では、何時にどこに行くか、「乗り鉄」の人は電車に乗る気分で仕事に取り組んでいるようです。

 

間接業務だけだと仕事量に限界が来てしまうので、本業にまつわる仕事も増やしているところです。PCのキッティング(業務用のいろいろなアプリケーションのインストールや、各種設定などを行い、PCを業務で使えるようにする作業)なども手掛けていくつもりです。

 

また、PC廃棄の仕事も検討しています。データを消し、破砕処理をして、パーツに分ける。法人がPCを廃棄するためには、費用が1台につき1万円以上かかります。その費用がかからなくなる上に、分解したパーツを売ることもできます。

 

障害者をどのように採用するか、どういう仕事をしてもらうかは、今後も課題です。私も関わるまで分かりませんでしたが、彼らは一心に仕事に取り組み、改善の提案もしてくれます。試行錯誤ですが、他社事例や私たちのノウハウをためて、野村総合研究所らしい会社として成長させていきたいと思います。

 

(opnlab)

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