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2020年にむけた教育改革の胎動〜国立高校 大野先生のアクティブ・ラーニングの実践

2020年から大きく変わる大学入試。国の教育改革において、大学入試を教科別の知識を問う形式から、総合的な思考力・判断力・表現力を求める形になるよう、議論が進められています。

 

そこで国をあげて推進しているのが「アクティブ・ラーニング」です。従来のように、一方的に教師が知識を教えるのではなく、双方向の授業のスタイルをとり、主体的に学ぶ力をつける環境をつくります。大きな教育スタイルの転換になるため、実際の教育現場で積極的に取り入れている先生はまだ一握りだといいます。そこでopnlabでは、東京の多摩エリアの進学校、都立国立高校で生物の授業にアクティブ・ラーニングを導入している大野智久氏に、教育改革の背景とアクティブ・ラーニング実践の現場について話を伺いました。

 

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2015年4 月、大野氏は都立新宿山吹高校から都立国立高校に異動してきました。3年前から授業にアクティブ・ラーニングを取り入れてきた大野氏は、その授業を国立高校にも展開します。国立高校では常に授業の見学を受け入れるようにし、異動から約1年で100名を超える教育関係者が訪れています。

 

大野氏の授業を見学すると「先生が何もしない」ことに驚きます。黒板に説明を書いて話すスタイルではなく、授業の最初にプリントを配り、その後は生徒が好きな方法で課題を解決していきます。教え合うグループがある一方、一人で黙々と調べる生徒もいます。わからないことがあれば先生に質問し、共有したほうが良い内容の時は先生が全員に声をかけます。

 

そもそもアクティブ・ラーニングを推進している教育改革とはどのようなものか、大野氏に解説していただきました。

 

3つの重要会議

 

現在、国の教育関係の指針は「教育再生実行会議」が方向性を決めています。

 

本来は中教審といわれる「中央教育審議会」が国の教育指針を作って施策を実行してきましが、安倍内閣が教育改革に直接関わる内閣総理大臣の諮問機関として「教育再生実行会議」が作られました。産業界から「教育改革」の強い要請もあり、教育関係のトップの組織として、社会で戦える人材育成を目指した教育の仕組みづくりを進めています。さらに「高大接続システム改革会議」で、大学入試を改革する議論が行われています。

 

また、「論点整理」といわれる「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告) 平成27年8月26日」は、教育業界を俯瞰する上で重要な報告書となっています。

 

教育改革の背景

教育改革が求められる背景の一つは労働力の減少です。個人の生産性を上げることが求められています。また、多くの職業が数年後には消滅するといわれています。その中で生き抜く力をつけるために、教育から変えなければいけない、という考えからきています。

 

過去にも「ゆとり教育」をはじめ、教育改革は何度となく取り組まれてきました。成功しなかった大きな要因は「大学入試」が変わらなかったためです。けれども今回の教育改革は、大学入試にもメスを入れます。1)大学教育改革、2)大学入試改革、3)高校教育改革という3つの改革が同時に進められます。

 

「大学教育改革」においては、大学側がアドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーを明確化して、実施することが求められます。どのような学生を入れ、教育を行い、どんな人物像に学位を渡すのかを明文化します。文部科学省はこれが形骸化されていないかどうかのチェックにも力を入れていきます。

 

「大学入試改革」では、大学の試験がマークシート式から記述を含んだ形式に大きく変わります。「高等学校基礎学力テスト」で高校レベルの知識を問い、「大学入学希望者学力評価テスト」で論述試験なども交えた思考力・判断力・表現力を問います。2016年に中学2年製になる子供たちが「高等学校基礎学力テスト」の試行版の一期生となり、段階的に移行していくことになります。

  

「高校教育改革」では、思考力・判断力・表現力を問う大学入試に対応するため、「何を知っているか、何ができるか」という知識に加え、「知っていること・できることをどう使うか」という思考力や判断力をつける教育が重視されます。さらに主体的にその知識を活用できるかどうかという力を育むことを目指していきます。

 

その力をつけるために、中央教育審議会で活躍されている無藤隆教授は、高校教育では「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の3つの学びが重要であることを強調します。知識を習得し、問題を発見して探究する。その知識をつないで体系化するために対話をしながら学ぶ。この学びは人から教えられるのではなく、主体的に学ぶのです。

  

ビジネスの現場に「決まった答え」はありません。答えがあることが当たり前になっている高校教育現場において、答えが明確ではない問いに対し、主体的に考えて解決する体験を提供するのがアクティブ・ラーニングなのです。

  

大野氏は学びの結果を具体的な未来で提示します。「年収200万円ではなく年収500万円を稼げるようにするには、どのようにすればよいか。与えられたことだけをこなす人になると、年収200万円の世界になるのです」

 

アクティブ・ラーニングの授業をデザインするポイント

 

大野氏がアクティブ・ラーニングの授業をデザインする際に重視するのが「目的の明確化」です。大野氏の目的は「自立的な学習者」を育成すること。そのために授業を課題発見力と課題解決力をつける構成にして、主体性、協働性、多様性をもたせる環境をつくります。評価方法は明確化し、学習者も授業者もPDCAを回すしかけにすることも意識しています。

 

経済産業省は12項目の「社会人基礎力」(http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/)を発表しています。ここに記載された主体性や働きかける力、実行力、課題発見力、発信力、状況把握力などを、従来型の一方通行の授業で身につけることは難しい。そこで「(先生が)教える」から「(生徒が)学ぶ」、つまりteachからlearnへの質的転換が必要となる流れの中で、アクティブ・ラーニング型の授業が求められてきているのです。

 

アクティブ・ラーニングには様々な考え方が提案されていますが、大野氏は上越教育大学 西川純教授の『学び合い』の考えにもとづいた授業を展開しています。ここにおける一番のパラダイムシフトは「子供は有能である」という考え方です。さらに、「一人も見捨てない」という軸をおいています。「子供は有能ではない」と考えてしまうと、教師が一方的に教える仕組みが必要になるのです。

 

アクティブ・ラーニングの授業は、1)目指したいもの、2)授業のデザイン、3)アクティブ・ラーニング型の授業の効果、4)授業の改善という4つの要素を明確にして、常に改善をしていくことが基本です。

アクティブ・ラーニングで幸せをつかむ

 

アクティブ・ラーニングでは「主体性」を大切にしています。主体的に自らの幸せを実現し、他者の幸せへの貢献もできる人間を育てることを目指しています。授業では、自分の目で見て、自分の頭で考え、主体性をもって行動することが重要になります。

 

自主性と主体性の違いは何か。自主性とは、人から期待されていることを先回りして実行することです。進学校には優等生がくるので、自主的にやることは得意です。しかしこれからは、「教員はこういうことを期待しているかもしれないけれど俺は違う。なぜなら…」とその違いを主張して対等に議論できる主体性が大切になります。

 

大野氏は、授業で課題の書かれたプリントを配ります。生徒は課題を解決するために、スマートフォンで検索しても、好きな参考書で調べても問題ありません。席の移動も自由で、一人で学んでもグループで学んでもかまいません。ただし、何も情報がない何をしてよいかわからない、という生徒のために、大野氏は課題を準備します。それを解いていくと山の頂上には登れるようにします。さらに発展課題も用意してクリエイティビティを育みます。

 

「理解」するとは何か

 

理解には段階があります。

知る = know
わかる = understand
説明できる = explain
考察する = think

understandを目指し、より深い理解を求めたい場合はexplainも求めます。

 

また、学びには、内発的な動機付けが大切です。1)make them think、2)let them thinkの2種類であれば、アクティブ・ラーニングでは2)を目指した授業をします。1)は強制するもので、報酬や罰で動かすことも1)に含まれます。本人たちが「学びたくて仕方がない」と強く思う状態まで気持ちを高めてから、「どうぞ学んでいいですよ」という状況を与え、学生が「学んでいいんだ!」と堰を切ったように学び始める、という流れが理想だと大野氏は考えます。

 

エドワード・デシの「自己決定理論」では、人がやる気になる3つのポイントをあげています。

  • 自律性の欲求 = 「えらべる」
  • 有能感の欲求 = 「できる」
  • 関係性の欲求 = 「つながれる」

アクティブ・ラーニングはこの欲求を満たします。多様な学び方の選択肢「えらべる」があります。対話の中での学びによって「つながれる」こともできます。到達段階に応じた学びで「できる」を感じることができます。自らのペース合わせて進められるため、内的動機を生みやすいのです。

 

さらに「理解」には4段階あり、

1)わからないことがわからない

2)わからないことがわかる

3)わかった気になる

4)本当にわかる

1→2、3→4は大きな変化があります。生徒が「わかった」という場合はほとんどが「3」です。自ら説明すると頭が整理されて「4」のすごくよくわかるになります。この経験をつむことで「先生が説明していたことはこれか!」と本当に理解するのです。


  

アクティブ・ラーニングの効用

 

アクティブ・ラーニングでは協働して学ぶことで「教える方」も「教えてもらう方」もコンテンツの理解が進みます。一方向の授業では得られない体験です。

 

実際、国立高校生のアンケートをみると、「対話による学び」の効果を実感していると書かれています。もともと勉強ができるので、はじめは恥ずかしくてなかなか人に聞けなかったけれども、「教えて」と言えるようになり、一層学力を伸ばした生徒もいます。

  

テキストを読み込む力も養います。課題を解決するために、自分で教科書の一語一語を読み解き、「自分の目で見て自分の頭で考える」訓練をするからです。自ら問いの発見と探究をすることも可能になります。気になったことをすぐに調べる、ということは一斉授業ではできません。アクティブ・ラーニングでは探究して学びを楽しむことが可能なのです。

 

課題を解くために時間配分を決めることや、試験後の振り返りを行うなどの主体性も育まれます。そして、広くてゆるやかなつながりができます。高校生はあまり人間関係が広くないため、放っておくと特定の人としか話しません。教師側がランダムに4人1グループを作って課題を解かせる時間や、生徒が自由にグループや個人ワークをする時間などを盛り込むことで、クラスで広くゆるやかな人間関係を築くことができます。どのようなグループになっても、誰とでも話ができるようにます。これにより、他の学校生活にもよい効果を与えます。

 

大野氏の授業では、集団全体で点数をあげていくことを目指し、テスト自体をプロジェクト化します。このため、平均点だけでなく集団分布も生徒に公開します。はじめのうちは『学び合い』が活発ではなかったクラスが、次第に慣れてきて、主体的に学び、学び合うことで、集団分布の点数が右(良い点数)へ移動してきたという成功事例もあります。しかも生徒がそのグラフをみて「平均が上がり、標準偏差が縮まっているのはいいことではないでしょうか」とコメントしてきました。生徒もしっかりと成果を理解しているのです。

 

教員の職能の変化

アクティブ・ラーニングのニーズの高まりにより、教員の職能が変化していきます。従来は教員がわかりやすく丁寧に教えれば問題ありませんでした。これからは生徒の可能性を引き出だし、よりよい学びの場を提供することが必要になってきます。

 

「わかりやすく丁寧に教える」ことをすればするほど、これからの社会を生き抜くために必要な「主体性」を獲得できずに終わる可能性が高まります。可能性を引き出し、教えることを手放すことがこれからの教師の仕事になるだろう、と大野氏は結びました。

 

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「アクティブ・ラーニング」をテーマに取り上げたカト研座長の加藤肇

大野氏のアクティブ・ラーニングの授業は、進学校で教えるようになり一気に注目が集まるようになりましたが、実は前の学校と教え方は変更していません。しかし進学校で教えて成果を出すことが、より重要だと考えています。大学受験は旧来のマークシート式のままの状態で、教育改革後の教育スタイルで臨み、結果を出すことができれば、『学びあい』が真に子供の力を伸ばすことの証明になるからです。

(オプンラボ 小林利恵子)

2016年3月4日開催

カト研:これからの教育を考える〜高校生と考える我が社の課題

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